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山と建築Vol.1 『スイスと日本の山岳建築』


スイスと日本の山岳建築

山と建築シリーズ第1弾
本体価格1,000円(税込価格1,080円)
厳しい気候に建つ山岳建築。
その風土と共存した建築をスイスと日本を例に挙げて紹介する
監修 土本俊和
信州大学山岳科学総合研究所 編

品切れ


2009年12月発行
ISBN 978-4-904570-15-9 C0052
A4判84ページ

本書は2008年12月11日から13日の3日間、長野県各地で開かれた「国際山岳建築シンポジウム信州2008」の内容をまとめたものです。

日本アルプスを擁する長野県には、山小屋のほか、山麓の集落にも産業的、文化的な価値を秘めた建築物が残されている。これら山岳地域の建築と景観について考え、積極的に評価し、「山国」信州から発信していくことを狙いとして、2008 年12 月11日〜13 日の3日間にわたり、信州大学山岳科学総合研究所主催による「国際山岳建築シンポジウム信州2008」が開催された。長野県須坂市・長野市・松本市の3 カ所をシンポジウム会場に、山岳地域に建築物や集落が多いスイスから建築家のアルマンド・ルイネッリ氏、美術史家のレッツア・ドッシュ氏を招き、北アルプスや八ケ岳山麓などで山小屋や地域特有の建築物について調査している日本の研究者や建築家がそれぞれのテーマで講演し、活発な意見交換が行われた。本書はその講演・ディスカッションの内容をもとに編集したものである。なお、一部、発表原稿も含まれている。(本文より)

趣旨説明

土本俊和 信州大学山岳科学総合研究所研究員・信州大学工学部教授

今、ローカルな動きと、グローバルな動きが密接に結びつき、環境対策などは地球規模で動いているけれどもその一方で、ローカルなところで争いごとや現地人のつながりが出てきており、地球が一体化されながらも、非常に細かくなっていると思います。その中で、注目されているところとそうでないところがありますが、山岳地域は、やはり注目度が充分ではないと思います。この周辺地域は人口の少ないところでありまして、スイスでは山の奥の人口の少ないところまでポストアウト PostAuto という郵便バスの路線が張りめぐらされていますが、日本では「限界集落」と呼ばれてコミュニティが崩壊し、景観も破壊されていくところが出てきています。

そこで今回の国際シンポジウムで特徴的なことでありながら、問題の共通しているところを結びつけることで、面的につながっている、「グローバル化」のように面的に繋がっているわけではないけれど、点と点とを結びつけることによって、ある意味でネットワークを構築することを理想とした国際シンポジウムにしたいと思います。
本日は、日本アルプスを核に、中央アルプス、北アルプスを持つ長野県の信州大学と、スイスのヨーロッパアルプスでご活躍の建築家の方と美術史家の方の2名の連携を含め、山岳研究のいろいろな点を伺いたいと思います。

もうひとつのテーマは「山岳建築」です。山岳建築という言葉は昔からあったわけではないと思います。「山の建築」「山岳の景観と建築」というのは、いくつか過去に提案されていて、日本で有名なのはブルーノ・タウトですが、彼が日本に来る前に残したスケッチなどは、「山にどう向き合うか」ということが提案されていると思います。

建築の流れを見ると、ヨーロッパと日本の歴史ではずいぶん違うと思いますが、基本的には、規範となる建築があって、それを大規模な建築に造るということです。全体的には左右対称のどっしりとしたいわゆる古典主義建築という部分が支配的な流れになってます。ヨーロッパにおいても観光で教会に行きます。日本では神社仏閣に行く。古典主義建築は、歴史の中で出てきたんです。

ヨーロッパでいえば有名なパラディオの建築があります。それに対して、インターナショナルスタイルという意味で国際的な建築の流れを作ったのが、モダニズムでした。モダニズムの建築というのは、今の日本の建築の基本であります。もっとも建築の学生が勉強する分野ではありますが、装飾を忌み嫌うところがあります。ボリューム感で建築を表現していても装飾デコレーションを削ぎ落としていく、あるいはリズムを強調しているということで、古典主義建築と大きく違うところで流れていった。日本でそういう動きが戦前1945 年を境とした以前にはあったそうです。

日本ではそれが開花したのは、1964 年に東京で行なわれたオリンピックのあたりで、それはアメリカ、ヨーロッパ、ほかの諸外国においても同じような傾向があります。国際性の中で、どこにでも建ってもいいという建築が出てきたわけです。それに平行する形で日本独自の建築やスイスらしいというような、地域色のある建築の動きもあったということです。
スイスでは、地域主義という言葉でドッシュさんにご講演いただきましたが、スイスの農民建築というか、農家の建築の形を模しながらの新しい駅舎だとか、そういう公共建築であり、時代とデザインを超えていくというのはどういう姿勢であるかということで、ルイネッリさんが「伝統と対峙する」というお話をして下さいました。伝統にべったりひっつくということではなくて、伝統と向き合いながら新しいものとも向き合っていく。

そこで重要なのは、同じように「日本らしい」という動きがありました。それは帝冠様式と呼ばれており、軍国主義的な背景もあって、西洋風な建築をあっさり捨てようということが行なわれていたのです。実は私も保存運動をしましたが、昔の長野駅舎ですね。あの長野駅舎のようなお寺風の、神社仏閣のような建築がインターナショナルスタイル以前にありました。それが長野オリンピックの直前に壊されてしまいました。JR の今の奈良駅に帝冠様式の建築が残されています。そういった時代の刻印を持つ建築は、地域の「らしさ」に基づいたいわゆるドッシュさんの言われる地域主義に基づいたものになっていたと思います。
一帯が同じそのスタイルというようなものは丹下健三の国立競技場以後ですけど。戦後、日本らしさを捨て去りましたので、どこにでもある、どこにあってもいいようなものが支配的になったということで、そこが国際建築様式のひとつの帰結点ということで、さらにその後にご存知のポストモダニズムが出てきたわけです。

地域主義〈ローカリズム〉というものは、建築が地域に密着したものとして息づくようになりました。しかし、そのような関係の中で個別に研究することで狭く蛸壺の中に閉じこもってしまうのは非常によくないことで、ローカルであればあるほど、やっぱりグローバルでなければいけないわけです。
冒頭にも申し上げました世界がグローバリゼーションの波に巻き込まれつつあるけれども、非常に細分化しつつあるということ。細分化しつつある一つのピースの中に、われわれは閉じこもっていてはいけないということです。ピースの中で、共通の問題となる世界各国のさまざまなローカルでの営みに対するには、ネットワークを構築して、連携を持って進んでいく必要があるんだと思います。それが最初にも言ったように、「国際化」そのものなんですよ。体系化された一つの問題点の拠点である山岳地域、アルプス、ヨーロッパ、それを信州大学の場で伝えていって、さらに広がりを全体的に伝えていければと考えております。

目次

スイスの山岳建築

現代スイスの山岳建築 〜シンポジウムに先立って〜 土本俊和
アルプスの山地に建てる ─二つの例─ 〈 独日対訳〉
アトリエハウス(フォトスタジオ+住宅)・家畜小屋 再利用  アルマンド・ルイネッリ
地域主義ということ 〈独日対訳〉 レッツア・ドッシュ
レーティッシュ鉄道沿線の建造物〈独日対訳〉 レッツア・ドッシュ
建築と山岳景観〈独日対訳〉  レッツア・ドッシュ
スイスと日本の山岳建築  樋口貴彦

日本の山岳建築

日本アルプスの山岳建築  梅干野成央
山岳都市における歴史的住居(古民家)の再生 川上恵一
山岳建築の実践  坂牛卓

パネルディスカッション

コーディネーター 土本俊和
パネラー アルマンド・ルイネッリ/レッツア・ドッシュ
樋口貴彦/梅干野成央/川上恵一/坂牛卓

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