HOME » 信州学 自然と紀行-山岳科学ブックレットシリーズ»山岳科学ブックレット No.1『登山道の安全を考える』

山岳科学ブックレット No.1『登山道の安全を考える』


登山道の安全を考える

~白馬大雪渓ルートの事例から~

信州大学山岳科学総合研究所・編
本体価格933円(税込価格1,008円)
相次ぐ登山事故……
登山道での事故を防ぐために何をすべきか?
様々な立場・視点からその安全策を探る


2009年7月11日発行
ISBN978-4-904570-06-7 C0065
A5判96ページ

[山・ひと・くらし]山岳科学ブックレットシリーズ

行政・研究者・業者など山岳関係者が提言する、安全な登山道のありかた。
登山者、山岳関係者必読の書
(本書は、2009年2月21日、信州大学山岳科学研究所主催によるシンポジウム『登山道の安全を考える』をまとめたものです)

☆著者プロフィール
☆はじめに

目次

はじめに/白馬大雪渓ルートの自然のあらまし 苅谷愛彦・小森次郎

第一部●白馬大雪渓ルートの事例から

白馬村・登山観光の現在
白馬村における登山観光の現状及び課題
白馬村長 太田紘熙

山岳の土砂災害はどこまで防げるか
大雪渓周辺の土砂災害特性 ─ 砂防からみた山岳の土砂災害 ─
長野県姫川砂防事務所長 松本久志

さまざまな地質がひしめく白馬大雪渓
白馬大雪渓上部、葱平付近の地質の特徴と崩壊との関連
長野県環境保全研究所 主任研究員 富樫 均

謙虚な気持ちで山と接する心構えが大切
2008年8月崩落事故後の閉鎖と再開をめぐる経緯
北アルプス北部山岳救助隊長 降籏義道

第二部●登山道の事故と危機管理

自然公園内の歩道〈登山道の特性〉
環境省長野自然環境事務所
国立公園企画官 中野圭一

山の落石事故はなぜ起きるのか
事例から見えてくる特徴と対策案
名古屋大学大学院環境学研究科特任助教 小森次郎

山の道は、山小屋の生命線
槍・穂高連峰の登山道管理についての現状
(株)涸沢ヒュッテ代表取締役 山口 孝

活火山・浅間山における登山者への情報提供実験
浅間山倶楽部ポータルサイトの運用に向けて
NPO法人 環境防災総合政策研究機構 主任研究員 新堀賢志

登山道の安全に向けて シンポジウム 総合討論より
オーガナイザー
信州大学山岳科学総合研究所客員准教授 苅谷愛彦

登山道の地形変化に対応するための注意ポイント
苅谷愛彦・小森次郎

はじめに

登山の醍醐味の一つは、地形や気象、体力、装備などを総合判断して山行計画を立て、刻々変化する自然に身を委ねることである。そして、登山は誰かに管理されるものではなく、それゆえ、逆に身命に関わる重大事故が起きた場合の責任は登山者自身に帰するとの考えが日本では支配的であった。

一方、最近の事故の多発や外国人を含めた初心者の増加、登山様式の多様化を受けて、一定の登山道管理を必要とする声も聞かれるようになった。こうした流れにあって、登山道の維持や管理を巡っては登山者、行政、観光業者(山小屋)及び研究者の間で必ずしも意見が一致せず、多角的・客観的視点に基づいた安全環境づくりが進んでいない現実がある。互いの利害が一致しないなど、意見が収斂しない理由はいくつか考えられるが、そもそも関係者が情報や意見を交換できる場が非常に少なかったことは問題であった。

本シンポジウムは、1.日本アルプスを代表する登山道である反面、自然災害による事故が続いている白馬大雪渓ルートを中心事例にとりあげ、2.様々な立場・視点から登山道の安全に関する情報を持ちより、3.登山道の安全を巡って意見交換すること、をねらいとした。こうした枠組みを設けた理由は4つある。

第1に、日本有数の登山道を擁する白馬地域での安全に対する方策やそれに伴う効果は、海外も含めた登山や観光の将来像の一モデルになると考えられることである。
第2に、白馬村は本格的な国際観光地化をめざしていることである。不況や円高など逆風は強いが、この挑戦が成功した暁には観光客全体に占める登山者の割合、特に外国人登山者の比率は高まっているはずである。また白馬大雪渓は世界でも希な大規模越年雪渓で、観光資源としてだけではなく学術的にも価値が高いことから、今後の方策次第では将来にわたり一定の登山者の往来が見込まれる。多数かつ多彩なゲストを迎える前に、先進的な安全基準作りや環境整備のための議論が必要な段階に来ている。
第3に、前述のように、議論を始めるには関係者が情報や意見を交換できる場が必要なことである。
そして第4に、信州大学山岳科学総合研究所と白馬村は包括的連携協定を結んでいることである。両者は学術研究で緊密な関係を築きつつあり、登山道に関する検討や議論でも協力しあうことが望まれている

本シンポジウムの主眼は登山道の安全を考える議論のきっかけ作りにある。入山規制の導入や登山道の改廃問題を結論づけることが今回の優先課題ではない。意志決定過程が悠長なものであってはならないが、十分な議論なしに導入した方策は長続きしないことも多い。講演者のみならず、会場に来られた方々からも建設的な意見やアイデアが出され、次の議論へ発展してゆくことを期待したい。

シンポジウム「登山道の安全を考える」オーガナイザー
信州大学山岳科学総合研究所客員准教授・専修大学文学部環境地理学研究室准教授
苅谷 愛彦
名古屋大学大学院環境学研究科特任助教
小森 次郎

⇒ページトップへ

信州大学山岳総合研究所のホームページ

苅谷愛彦(かりや よしひこ)

信州大学山岳科学総合研究所客員准教授、専修大学文学部環境地理研究室准教授。
工業技術院地質研究所(現・産業技術総合研究所地質調査総合センター)勤務時代に「立山」や「白馬岳」地域の地質図作成業務を担当して以来、北アルプスと本格的につきあう。月山や平標山、仙丈ケ岳のほか、ペルー・アンデスでも調査を行ってきた。千葉大学を経て2007年より現職。
専修大学苅谷研究室のホームページ

小森次郎(こもり じろう)

名古屋大学大学院環境学研究科特任助教。地質コンサルタント会社技師、大学職員を経て大学院へ進学。学位取得後、都内の大学や小学生理科科学実験教室で講師を務める。国内では白馬地域のほかに、富士山南東斜面の地形変化と土砂災害に関する研究を行っている。
海外ではヒマラヤの氷河・氷河湖変動とそれにともなう災害に関する研究を行い、2009年7月からはブータン国地質調査所においてJICA専門家を兼務。
名古屋大学大学院環境学研究科のホームページ

太田紘熙(おおた ひろき)

長野県北安曇郡白馬村村長。
長野県立大町高等学校、法政大学社会学部応用学科卒業。
1988年(有)大糸興業入社、1988年(株)大糸代表取締役社長に就任。1989年~2001年白馬村村議会議員。2006年8月白馬村長に就任
白馬村公式サイト

松本久志(まつもと ひさし)

長野県姫川砂防事務所長。
1949年に北安曇郡小谷村に生まれる。
1968年から長野県に勤務し土木行政に携わる。特に砂防関係では、地元の姫川砂防事務所の勤務が長く、平成7年(1995)7月の豪雨災害や蒲原沢土石流災害等を経験。
長野県姫川砂防事務所のホームページ

富樫 均(とがし ひとし)

長野県環境保全研究所・自然環境部・主任研究員。
山形県生まれ。信州大学大学院終了。上水内郡飯綱町在住。
専門は環境地質学で、「長野冬季五輪の自然への影響と対応」や「信州の里山に関する総合研究」等のプロジェクトリーダーを務める。新版長野県地質図作成事業の幹事長。技術士(応用理学部門)。なお、研究活動のかたわら、俳人として句集『風に鹿』(ふらんす堂)も出版。
長野県環境保全研究所のホームページ

降籏義道(ふるはた よしみち)

1947年長野県白馬村に生まれ、幼年時より、スキーと登山に親しむ。21歳で、南米パタゴニア・アンデス、パイネ・ノルテ初登頂。以後、チョモランマ、マナスルなどヒマラヤ遠征や、ヨーロッパ・アルプスで多数の登山ガイドを行う。現在、北アルプス北部山岳救助隊長、(社)日本山岳ガイド協会副会長、白馬山案内人組合組合長、日本山岳会会員。著書に『降籏義道の実戦山スキー』(山と渓谷社)、『日本アルプス』共著(実業之日本社)他がある。
白馬山案内人組合のホームページ

中野圭一 (なかの けいいち)

環境省長野自然環境事務所勤務 国立公園企画官。
岐阜県生まれ。平成3年環境庁採用(現在の環境省)。雲仙天草国立公園、白山国立公園のレンジャー。中部、北海道の自然保護事務所では施設整備と自然再生事業を主に担当。
環境省自然環境局勤務を経て平成20年4月から現職。
環境省長野自然環境事務所のホームページ

山口 孝(やまぐち たかし)

(株)涸沢ヒュッテ代表取締役。
1947年11月10日東京下町生まれ。山の本を出版していた朋文堂の編集長であったおばの影響で、15歳より涸沢ヒュッテに通いだす。獨協大学卒業後、2年ほど旅行代理店に勤務し、その後1年間ヨーロッパを単身旅行。1972年より小屋番としてヒュッテに入る。以来、小林銀一氏につかえ、毎日ボッカのしごきを受け、小屋番仕事と山岳レスキューに走り回る。2001年より涸沢ヒュッテ代表取締役。2007年より北アルプス南部地区山岳救助隊長。2009年より北アルプス山小屋交友会会長。生涯現役をモットーに明るくあたたかいセンスあふれる快適な山小屋づくりをめざす。
涸沢ヒュッテのホームページ

新堀賢志(にいぼり けんじ)

三宅島火山を中心に伊豆諸島の火山を研究し、千葉大学で博士(理学)を取得。その後、東京大学地震研究所にてイタリア・ヴェスヴィオ火山の噴火で埋没したローマ遺跡の学際的調査団の一員として研究に参加。
現在、NPO法人にて火山災害等の防災の調査、研究に加え、引き続き噴火罹災遺跡の調査を行っている。
NPO法人環境防災総合政策研究機構のホームページ

(登場順)

⇒ページトップへ

山岳科学ブックレットとは

山岳地域は、陸上に残された数少ない貴重な自然資源であると同時に、地球規模での環境変動の影響を受けやすい脆弱な自然でもあります。標高が高いために森林の無い高山域から人々の生活が営まれる里地・里山にいたるまでの、山岳地域と呼ばれるこの環境系は、地球規模での環境変動の影響はもとより、人間の生活系との相互作用によっても変化しやすい地域です。2006年7月に再出発した際に掲げられた信州大学山岳科学総合研究所の基本理念は、「今後100年間の近未来を見据えた、山岳地域の自然環境と人間活動との持続的な融合の方策を探る」ということです。

この理念を実現するために、先ず、山岳地域での環境問題の根幹をなす、「物質循環機構およびその動態」、「地表変動および災害発生機構」、「生物多様性および多種共存機構」について地球生物圏科学の視点からきめ細かく解析します。次いで、ここで明らかになったことを基礎として、「山岳地域に暮らす人々にどのように影響するのか」、「人々はどのように山岳地帯と関わっていくことが望ましいのか」を、森林、里山、都市をひとつの環境系として位置づけながら研究していきます。
そして、最終的には、人間を含む生命系の永続的な維持をめざして、大気・大地・生命の有機複合的な自然環境の躍動性を明らかにし、自然環境再生・保全・活用および防災を実践する事のできる「山岳地域の自然環境と人間活動との持続的な融合の方策」の提言を行います。

これらの研究作業の営みの中で、明らかになったこと、問い掛けてみたいこと、提案したいこと、議論したいことが数多く出てきます。それらの思いを皆様に分かり易くお届けする機会として、山岳科学ブックレットを刊行することとしました。山岳科学はとても広い領域を対象としています。ブックレットも多種多様な題目で次々と刊行されることになるでしょう。是非、肩肘張らずにお読み頂き、皆様と一緒に「山・ひと・くらし」について考えることができれば幸いです。

信州大学山岳科学総合研究所長 鈴木啓助

⇒ページトップへ

山岳科学ブックレットシリーズ 既刊No.1〜No.6

⇒ページトップへ

0件の読者の声 »

コメントはまだありません。

この投稿へのコメントの RSS フィード。 TrackBack URL

本の感想をお寄せください。

編集部で掲載の可否を判断させていただきます。
あらかじめご了承ください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)




TOPへ戻る