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『10代からの「いのち学」』発刊します


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オビ

がん細胞の世界は人間社会の縮図!?
個のアイディンティティを確立することが困難な現代で、本書はまさに「複眼の思考」で時代を見通し、独創力を養うための「生物学+人間学の法則」の書です。

NPO法人「がん哲学外来」理事長
樋野興夫


  • 10代からの「いのち学」
  • がん研究者が贈る「いのち」を慈しむ人間賛歌の書!

  • がん細胞の世界は人間社会の縮図!?

  • 年間の自殺者が3万人を超え、「いじめ」などの生命を軽んずる問題が絶えない現代社会。
    長年、がんの研究に携わり生命科学の第一線で活躍する著者が、10代の若者たちに贈る「いのち」を慈しむ人間賛歌の書。
    がん医療の最前線トピックも満載です!

  • 谷口 俊一郎 著 (信州大学大学院医学系研究科教授)
  • 2012年9月7日
  • 四六判変形 118ページ
  • ISBN:978-4-904570-62-3 C0095
  • 1,300 円(税込価格1,404 円)

はじめに 【宇宙より重く、かけがえのない存在であるヒト】

皆さんは、時にふと「自分は一体どこから来てどこへ行くのか、何のためにいるのか」などと、袋小路にはまりかけたことはないだろうか? それは、「生きている意味を考える」ということとも言える。「そんなこと考えたことない」さらに「暗くていやだな」と思う人が少なからずいるだろう。もしそうであれば、ある意味、非常に健全羨ましいことと思う。私自身も、幼い子が無心に遊んでいるような生き方をしたい、理由もなく楽しくありたいと願っている。

しかし、現在その問いに対してどう感じようと、また、「面白おかしく楽しんで生きたい」と思う一方で、私たちはやがて必ず死ぬ存在であり、親しい人、そして自分の死を前にしたときに、いつかは否応なく直面する問いになることは間違いない。

私自身は、その問いに対して悩んだものの、出口がない強い虚無感に囚われ、どちらかといえば憂鬱であまり面白くない学生時代を送った。「生きる実感を得たい。生命そのものを勉強し世の中に役立ちそうな病気の研究をすれば、少しは前向きな気分になれるかもしれない」と思い、大学院での専門を「物理学」から「生命科学」に変更した。今思うと、進路変更したことは未熟で不必要なことだったが、〝いのち〟(物的生命に加え、精神や心の問題も考えたいので、あえて平仮名で書く)のことを考える引き出しを増やすことができた。

「人(生物学的な意味ではヒトと書く)は、その個人の仕事や状況に関係なく存在意義がある」と心から思うようになり、進路や職業にそれほどこだわる必要はないと考えるようになった。道を選択するということは、その時の状況や流れに身を任せるか、あがいてみて結果を受け入れる以外にやり様はない。その際、大切なのは「うまくいったか、いかないか」といった成否に囚われないことだ。状況を素直に受け入れて、精一杯生きられればそれでいいと思う。

私の学生時代は、大学に入る前も入った後も学園紛争の只中だった。連日、激しい議論のみならず、政治運動家たちの暴力的な紛争を目前で見てショックを受けた。私が志した「物理学」は原爆をこの世にもたし、また産業革命を介して歪んだ資本主義を導いた「悪」として非難され、私のような目立たない学生も批判的な詰問を受けた(今振り返ると、実に短絡的で且つ偏狭、そして理不尽な非難だったと思うが……)。

今の時代からしてみれば、野暮な昔話に聞こえるかもしれない。しかし、進路変更を促すくらいに、私にとっては大きなインパクトある学園紛争だった。専門科目に対する非難を受け止める中で、科学に関わって生きることの意味を余儀なく考えさせられ、自分を守る理論武装のために、ひとり部屋で天井を見ながら悩み続けた。

長崎、広島の原爆による悲劇を思い起こさせる2011年3月11日の東日本大地震による福島原発事故は、科学技術がこの世に及ぼした悲しい出来事の象徴だ。このことは大いに悩んだ学生時代を思い出させるとともに、「科学の倫理性」という面で改めて考えさせられる。一方、今では科学に内在する危険性と虚無的な感覚が強かった学生時代とは異なる捉え方を、科学に対して抱くようになってきた。

科学が本来、人間にもたらすことは、「人間って凄いな」という思いだと感じられるようになってきたのである(「いいな、いいな、人間っていいな」というテレビ番組〝日本昔ばなし〟の歌のように)。科学は世の中に有用な技術を提供する一方で、人間には制御できない困った状況も導く「両刃の剣」として、科学技術論の側面が多々議論される。しかし、科学の価値評価を見えやすい有用性や弊害だけに置くことは偏狭であり、むしろその目に見え難い価値こそが、私たちが生きていく上での、本質的で大切なことを教えてくれると思う。

本書では、まず「考える」ということを考えてみる。そして、近代科学の始まりといえる「科学革命」にも簡単に触れながら、現代の科学が教えてくれる「宇宙の始まり」、「生命の始まり」、そして「ヒトの始まり」に思いを馳せ、この世界の自然、特に私や皆さん自身であるヒトの〝いのち〟を「生命科学」の視点から考えたいと思う。それらのことを通して、科学の目的、方法と意義、可能性と同時にその限界をも踏まえて、自分たちが一体どこから来てどこに行くのか 、そのことをもう一度考えてみたい。

私自身の現在の専門は、がんの基礎的研究であり、「分子生物学」という学問を通して、がん発生の仕組みを解明し、治療や診断への応用を試みる仕事である。だから、生命科学に関する話が多くなる。がんに興味のある方は、生命科学の概略と、がんという病気の予防や治療についての今日的知識と考え方もある程度学ぶことができると思う。しかし、それは申しあげたいことの一部分である。むしろ、 勉学や研究を通して〝いのち〟に対しての考え方が「暗く虚無的な思い」から、「明るく積極的意義を感じる」ように変わったことをお伝えしたい。したがって、専門的すぎてわかりにくい所は読み飛ばして頂いて結構である。
この書を手に取ったあなたは、一体どんな人だろうか。①勉強好きな人もいれば、②勉強を億劫に感じる人もいるだろう、あるいは③何のために勉強するのか分からない人 もいるだろう。私自身は高校時代、①に関しては好き嫌いが極端に偏っていた。そして概ね②、③の思いに囚われがちだった。そんな者でありながらも、科学を学んだり、研究すること、特に〝いのち〟について面白いと思えるようになったので、できれば②、③の方々に少しでもそのことを聴いてほしい、という気持ちが強い。
物事(本書では、「もの」と「こと」というふうに、物質とその在り方、現象を区別する意味で平仮名で示す)の始まりやヒトの原点からみると、皆さんが勉強している各科目はどんな科目であれ、人々にとって面白く、どの分野も必要で意味があるからこそ、今まで受け継がれてきたのだと思う。それが、いつの間にか、競争社会で利用され、ランク付けやお互いの比較と選別のために用いられるウェイトが大きくなりすぎた。そのために、本来の楽しさ、大切さ、面白さが見えづらくなっている。ヒトという生物が、考える存在になり、社会を形成し、社会で作られた価値が一人歩きして、それに囚われすぎているのかもしれない。

この類の書物は、大体著者が有名であると読んでみる気になるが(この世では何を言うかではなく、誰が言うかが一般に重要視される……)、私自身は少なくとも一流ではなく「我流研究者」という肩書が最も相応しいと思っている。しかし、私自身、そして皆さん自身は社会の中での評価のされ方はともかく、宇宙的規模からいうと、取るに足らないものでありつつも、形を持ち、動き、そして「考える存在」としてそれぞれが大変不思議な傑作である。私に、そしてあなたに対する社会的付加価値に依存せず、その存在そのものの意義は宇宙より重く、かけがえのないものだ。そのように心から思うようになったので、世間の評価や真の価値のほどはさておき、私自身の考えをお伝えする気になった。また、科学全体を考えるという作業上、私の専門以外のことについても触れた。今日的正しい知識からして問題点もあるかと思うが、個人的考え方の軌跡として捉えて頂き、ご容赦頂ければ幸いである。

科学によって自然、そしてヒトとして生きていることのありのままを見て、その凄さを学ぶことは本来面白く楽しいものだと、少しでも感じて頂ければ、著者としてうれしく思う。

2012年7月 谷口俊一郎

目次から

「もの」と「こと」の始まり

考えるという不思議なこと [「考える」を考える]
救われた「なんとなくそうなんです」
なぜ?なんで?」という質問
形而下学問題How?と形而上学問題Why?の成り立ち
質問の意味を整理する、自分で創ってみる [成績アップのこつ?]
「いかに生きるか」の前に「なぜ0 0 生きるか」

科学の基本~現代までの流れ

近代科学の始まり、考え方の変革 [科学革命]
宇宙の始まり
地球の始まり
生命の始まり
生命誕生の物語を探る2つの方法 [現在 過去]
細胞の始まり
多細胞生物の誕生
ヒトの始まり
DNAから探るヒトの発生・進化過程

いのちの科学

現代生命科学の考え方 [わかることとわからないこと]
生命の基本単位である細胞
細胞の構造・働き・遺伝子のはなし
DNAの構造と機能
細胞計画死 [積極的に死を選ぶ細胞?]

「がん」を通して見えてくる”いのち”の意義

がん化メカニズムの今日的理解 [故障した暴走車の例え]
「がん」が遺伝子の病気と結論されるまでの経緯
がんの「個別療法」という考え方
がんが難病である理由
がん細胞のやっかいな性質 [転移]
ヒトのがん化防御システム
がん予防の話 [やっぱり食事と禁煙!]
がんの治療について
がん細胞から学ぶこと [多様性のたくましさ]
両刃の剣 [遺伝子情報の扱い方]
「なぜがんはできるの?」 [がんという病気の意味]

著者プロフィール

谷口 俊一郎(たにぐち しゅんいちろう)

九州大学理学部卒。信州大学大学院医学系研究科疾患予防医学系専攻分子腫瘍学講座。
教授。医学博士。理学博士。

1988年に日本癌学会奨励賞受賞。
専攻分野は分子腫瘍学。「転移」をキーワードに細胞形態及び運動制御の分子生物学的研究、がん細胞の遺伝的不安定性と核マトリックス、アポトーシスと炎症、嫌気性菌を用いた固形がんの治療等を研究課題としている。

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