山岳地域は、陸上に残された数少ない貴重な自然資源であると同時に、地球規模での環境変動の影響を受けやすい脆弱な自然でもあります。標高が高いた めに森林の無い高山域から人々の生活が営まれる里地・里山にいたるまでの、山岳地域と呼ばれるこの環境系は、地球規模での環境変動の影響はもとより、人間 の生活系との相互作用によっても変化しやすい地域です。2006年7月に再出発した際に掲げられた信州大学山岳科学総合研究所の基本理念は、「今後100年間の近未来を見据えた、山岳地域の自然環境と人間活動との持続的な融合の方策を 探る」ということです。
この理念を実現するために、先ず、山岳地域での環境問題の根幹をなす、「物 質循環機構およびその動態」、「地表変動および災害発生機構」、「生物多様性および多種共存機構」について地球生物圏科学の視点からきめ細かく解析しま す。次いで、ここで明らかになったことを基礎として、「山 岳地域に暮らす人々にどのように影響するのか」、「人々はどのように山岳地帯と関わっていくことが望ましいのか」を、森林、里山、都市をひとつの環境系と して位置づけながら研究していきます。
そして、最終的には、人間を含む生命系の永続的な維持をめざして、大気・大地・生命の有機複合的な自然環境の躍動性を明らかにし、自然環境再生・保全・活用および防災を実践する事のできる「山岳地域の自然環境と人間活動との 持続的な融合の方策」の提言を行います。
これらの研究作業の営みの中で、明らかになったこと、問い掛けてみたいこ と、提案したいこと、議論したいことが数多く出てきます。それらの思いを皆様に分かり易くお届けする機会として、山岳科学ブックレットを刊行することとし ました。山岳科学はとても広い領域を対象としています。ブックレットも多種多様な題目で次々と刊行されることになるでしょう。是 非、肩肘張らずにお読み頂き、皆様と一緒に「山・ひと・くらし」について考えることができれば幸いです。
信州大学山岳科学総合研究所長 鈴木啓助