リニア


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南アルプスと大鹿村大河原、リニアルート(破線)

『たぁくらたぁ』39号の伊那谷発「風」第4回は、「この谷にリニアはいらない」。その最初の記事が「住民軽視のまま「着工」に向かうリニア」で、そこに掲載したのが上の写真がです。リニアルートを破線で表してありますが、ルートが正確に表示されていません。雑誌では、そのあたりの説明が不十分でした、お詫び申し上げるとともに、ここで改めて筆者の河本明代さん(大鹿村議会議員)の解説を載せます。

『たぁくらたぁ』39号の49ページに掲載された写真は、つれあいがセスナ機に乗せていただく機会があり、機内から撮ったものです。ちょうど南アルプスと大鹿村内のリニアが通る地域が分かりやすいということで、掲載していただきました。ルートは大体の位置を示したものですが、斜め上空から見た写真であるため、平面図で見るルート位置と若干ずれてしまっています。この図では北の原、引の田という集落の真下を通るように見えますが、実際には集落より南側(図の右側)の地下を通る計画です。いずれにしても地下なので、村内でリニア路線が顔を出すのは小渋川を渡る1カ所、約170メートルだけですが、このルート線にほぼ並行して、手前の大西山方面から小渋川沿いにできる変電所まで鉄塔が建ち並び送電線が通ることになります。(河本明代)

なお、破線 が右側に飛び出しているところの集落名は「釜沢」。

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雪の釜沢

本ブログ「惑星地球に生きるなら ななお さかき』参照。


 今日12月23日は詩人ななお・さかきの命日。ななおは『たぁくらたぁ』に何回か登場している。ここで紹介するのは、品切れになった創刊2号の特集「コモンズって何だらず」の中で、ななおの言葉を紹介した記事。今、読み返してみても新鮮だ。

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放浪生活を続けたななおの終の住処となったのが大鹿村釜沢集落である。ななおはいつも、現代文明から遠いところを拠点に選んでいた。釜沢もそういう場所だった。ななおが住んでいた家(下の写真)は、小河内沢からせり上がる日当たりのよい急な斜面に張りつくように建っている。この家の縁側に座って見えるのは、幾重にも重なり合う山々とその向こうにそびえ立つ南アルプス、そして空ばかり。現代社会のメカニズムを、ここは背にしていた。

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しかし、リニアがこの大鹿村の地下を貫く計画になっているのだ。 今年3月、久しぶりに訪れた釜沢では、トンネルの非常口を造るためのボーリング調査が行われ、それにともなう騒音が集落を揺さぶっていた。非常口の予定地はこの家からわずか数百メートルの距離になる。

福島第一原発事故が象徴するように綻びが大きくなりつつある現代社会のメカニズムを、 さらに延長・延命させようとするリニア計画。12月18日、山梨県側で大鹿村につながるトンネル工事の起工式が開かれたが、この無謀な工事がとん挫することは十分考えられるだろう。大鹿村にはリニア計画に反対する人たちが少なからずいる。『たぁくらたぁ』では、その中のお二人の対談を記事にした(36号「リニア最前線からのたより 前島久美+谷口昇)。谷口さんは釜沢の自治会長。

「惑星地球に生きるなら」 は、ななおがこの地で書いた詩のタイトル。最後の2行を引用しておこう。

   地平むなしや 権力しずみ

      仰ぐは 太陽と月   


 行政用語ではトンネルを掘って出る土砂の処理を「発生土利用」という話を聞いてやりきれない思いがする。

  トンネルを造ると出てくるのは土や岩石だけではない。プラスチックファイバー(数センチメートル程度の長さのポリプロピレン製の紐のようなもの)を含む特殊なセメントも「廃棄物」として大量に発生する。掘った穴をまず補強するためのセメントだ。これを削り、鉄筋と良質のコンクリートで目的に沿った頑丈なトンネルが造られる。

 トンネルを掘るときに出る土や岩石とトンネルを造る時に出る莫大な「廃棄物」とが区別されることはほとんどない。

  地下から掘り出された岩石は私たちが生活する表層の「土」とは異質のものであることを忘れてはならない。掘り出された岩石は、雨にさらされその土地の成分とは異なる無機塩類が溶けだす。高濃度の金属類や重金属類が溶出する岩石、それに、高い放射線(自然由来の)を放つ土砂もある。

  トンネルの「発生土」の「利用」の実態は、おおむね、沢への埋め立て(投棄と言い換えても良い)だ。その結果、沢水(伏流水も)の水質を著しく変えてしまうことが少なくない。地下水の水質を変えてしまった例もある。

やがて、劣化したプラスチックファイバーから化学物質が溶出するかもしれない。

  掘り出された新鮮な岩石には養分はなく植物が根付かない。粉々にされた岩石の大地からは、雨水が吹きだし、法面がはがれるなどの現象が絶えない。

やがて、その土地が造られたものであることも忘れられ、局地的な大雨によって、土砂災害誘発する可能性だって否定できない。

  先達が言い続けてきたように「うまい話には裏がある」と思った方が良い。「利用」は面倒な処理をごまかすときに使われることばでもある。何しろ、1キログラム当たりセシウムが100ベクレル以下の採石なら、建材として「利用」できる時代なのだ。


JR東海が2027年に開業を予定しているリニアの東京・名古屋間の全長は286km、そのうち86%がトンネル(長野県内は90%超)で、合わせれば250kmになる。長野から東京まで地底トンネルを掘ったとしてもまだ余りある距離だ。リニアは地下40メートルよりも深いところを走る。最高速度は時速500km超。運転手はいないらしい。暗黒の地底下を飛ぶ「モグラ列車」。小誌33号の「無謀なトンネル」で松島信幸さん(理学博士、地質学)はこう例えた。

乗り物としてのリニアの恐さ(危険性)については、ここでは省略する。乗らなければいいのだから。新幹線の何倍もの電力消費やJR東海が赤字で経営破綻した時の問題は他人事ではないが、難工事ゆえに完成しないかもしれないから、これも置いておく。しかし、建設工事が始まるとすぐに生じる問題があって、それが水枯れと廃棄土砂処理(行政用語では発生土利用という)である。

水枯れ(ということは、どこかで異常出水)は、工事で地下水脈が分断されるので起こる。事実、山梨県のリニア実験線の建設で沢の水や井戸水が枯れた。赤石山脈(南アルプス)にトンネルを掘ればどうなるのか。松島さんは、「山は“水がめ”であり、大地は“水の貯金箱”である。山に穴を穿つことは、水がめの栓を抜くことである。その地下水の流出が途絶えることない」と指摘している。自然が壊れれば、山村の暮らしも影響を受ける。

本物もモグラがところどころに土盛り(モグラ塚)をつくるように、リニアのトンネル工事も掘った土砂をところどころで地上へ出さなくてはならない。このために概ね5㎞おきに深く大きな立穴を掘る。山岳地帯では横や斜めの穴になるが、どれも立坑と呼ばれる。この立坑から出される大量の土砂をモグラ塚のようにはしておけないので、どこかへ運んで捨てなくてはならない。東京・大阪間の工事ならば、トンネル廃棄土砂は諏訪湖を埋めたられるほどの量にも達するともいう。

では、長野県内ではこれをどこにどう処理するのか? 長野県リニア推進振興室に聞いてみた。捨て場については「まだ決まっていない」との返事。「では、候補地は?」。「まだ公表していない。県が候補地をとりまとめてJR東海に示している段階なので、いまは公表できない」ということだった。県が候補地を探してあげているとは知らなかった。

リニア計画の環境アセスに対して、長野県知事は意見書を提出し、その上でJR東海との基本同意を交わしたのだが、そこには捨て場にかかわる環境影響評価は含まれていないのだ。これでは、全部が決まっていないで見切り発車した計画に同意したのと同じだろう。そう問うと、「確かにおっしゃることも分かる」と県の担当者は言いながらも、環境アセスが追加で出てきた時に県知事が環境保全にかかわる意見を提出するので大丈夫だと説明した。しかし、県が自ら選んで示した候補地に関して、県知事がいかなる意見を述べるというのだろうか。結局、自民党と公明党の与党合意のような形で決着するのは目に見えるような気がする。

リニア建設によるマイナスよりもプラスの方が大きいと、県は考えているだろう。マイナスについてはきちんと評価を示すような仕組みにしていないが、プラスの方はしっかり数値で示す。それが世を闊歩する「経済波及効果」というやつだ。これについても県の担当者は説明した。そこに弾き出されている数字に、みなさんはどんな意味があると思うだろうか。

(つづく)


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長野県が田中康夫知事であった「信州の春」のようだった時代(2000年~2004年)、東京と大阪をむすぶリニア計画は眠ったままで県政の話題にあがることはなかった。赤石山脈(南アルプス)に穴をあけて長野県境を越えてくる総事業費9兆円のこの計画が、もしもあの当時に具体化したとすれば、田中知事が「脱リニア宣言」をしたかどうかは分からいながらも、村が壊されると訴える山村の声を汲み上げ、原発1基分の電力を消費するリニアの是非をそもそも論から問い直しただろう。

田中県政は遠くなり、リニア計画が進み始めている今も、その問い直しの必要がなくなったわけでは全くない。『たぁくらたぁ』では次号からこの問題の連載をスタートさせ、赤石山脈を貫くトンネルの坑口(これは山の傷口)の予定地となっている大鹿村から発信してもらう予定である。

4月2日の信濃毎日新聞の一面トップに、長野県がJR東海とリニア建設について基本合意を取り交わしたという記事が載った(上の写真)。見出しに「用地取得事務 委託協定」と書いてある。なぜ自治体が一企業の事業に手を貸すのか。

県庁のリニアに推進振興室に電話をして質問をした。法律の説明から始まって、「環境保全」や「発生土置き場」、「経済波及効果」などに話は及んだ。答えは丁寧で分かりやすかったが、もっともだと納得できるような中身はなかった。既成事実を決まり切ったかのように積み上げていくだけという行政の見あきた姿があるばかりだ。「壊す」でも「創る」でもなく、ただ「調整」の阿部県政。調整はいつも力の強い側に向いて行われる。

では、いったい何がどう納得できなかったのか。それをこのブログで報告しようと思う。 ただ、ぼく自身はこれまでリニア問題を詳しく調べてきたわけではないので、既知の事実の後追いになってしまうかもしれないが、リニア計画の現状が少しは見えるかもしれない。

33.JPG 『たぁくらたぁ』33号より

p4221343.JPG 『たぁくらたぁ』34号より

なお、『たぁくらたぁ』33号のリニア特集「リニアと伊那谷の今」(杉浦瑞希ほか)と34号の「地球から考えたリニアと伊那谷」(久保田雄大)は、リニアのルートにあたる地域からの視点で書かれているので、こちらはぜひお読みいただきたい。

野池元基