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2018年4月8日号「美しい瞳の青年に会いました」


 31日の晩のことでした。
夕食のために入ったのは、「寿司・居酒屋」と看板に掲げた店でした。
カウンターの隣席に一人の青年が座りました。
青年はメニューを見て、ビールといく品かのつまみを注文し、「お寿司屋さんだけど、白いご飯を頼めますか?」と主人に尋ねていました。
「ご飯が食べたいの?いいよ」と答えを聞いて青年は、チゲ鍋とご飯を追加しました。
主人が青年に「どこから来たの?おと酔いで来たの?」と尋ねると、目を輝かせて「はい」と答える青年でした。
 この日は飯坂温泉では、「ミュージックフェスティバル おと酔いウォーク2018」という催しが開かれていたのでした。
青年は、贔屓にしているバンドがこのイベントに出演するので、東京から来たそうです。そのバンドを追いかけているそうですが、バンドが飯坂の「おと酔い」に出演するのは初めてで、だから青年も飯坂に来たのは初めてだと言いました。
 注文の品と共に、大きな丼に盛られたホカホカの白飯が青年の前に置かれました。
美味しそうに食べながら青年は、今野さんと私が明日の長野での講演のことや、東電や政治のことなどを話しているのを興味深げに聞き入っていました。
ご飯を食べ終えて、ビールを飲む青年を交えての会話になりました。
 彼は静岡の出身で学芸大学の3年生、卒業後は郷里の静岡に帰って、特別支援学級の先生になりたいのだと言います。
なぜ特別支援学級の先生になりたいのか尋ねると、小学生の時にクラスにそういう友達がいたことや、その時の担任の接し方に感銘を受けて自分もそんな先生になりたいと思ったのだと言います。
キラキラと輝く瞳で、夢を語る青年でした。
 彼の名前は樹(いつき)君、「いい名前ね」と言うと「ありがとうございます。母がつけてくれました」と、輝く瞳で答えるのでした。
けれども、あまりにも彼は世の中のことを知らないのです。
元文科省の事務次官前川さんのことも知らず、連日報道されている森友問題のことも、まるで知らないようなのです。
原発事故は彼が中学生の時で、事故が起きたことは知ってはいても、それは一過性の出来事で、もう「終わった」と思っているのです。
 話しているうちにお腹が空いたのか彼はまたメニューを見て、ちらし寿司を注文しました。
店の主人も今野さんも私も、ひょろりと痩せている彼がそんなに食べられるかと驚きましたが、でも彼は注文のちらし寿司をおいしそうに気持ち良く平らげたのでした。
主人も今野さんも私も、その食べっぷりの良さに感心し、「美味しそうに食べるねぇ」と今野さんは言い、主人は「さっきご飯も食べたよねぇ」と言い、私は「育ち盛りなのね」と言い、樹君は悪びれずに「僕、ご飯が大好きなんです」と答えたのでした。
でも彼があまりにも世間知らずというか、世の中の動きに疎すぎることに、私は不安を覚えました。

 数年前に白馬村の木村紀夫さんの「深山の雪」のイベントで、信州大学の学生たちと話した時のことを思い出しました。
数人の男女学生は、ボランティアで木村さんの活動に関わっていたのです。
夕食の後でなんの話からだったか、「たぁくらたぁ」の野池さんが彼らに聞きました。
「どんな本を読んでいるの?」
彼らが異口同音のように言ったのは、本は読まないということでした。
「暇つぶしは他にたくさんあるので、本は読みません」と言う言葉を聞いて、「たぁくらたぁ」関係のおじさん、おばさんは驚いてのけぞりました。
「たぁくらたぁ」の村石さんが「ガールフレンドやボーイフレンドとは、どんなところでデートするの?」と聞くと、「映画に行くことが多いです」と答えが返りました。
でもその理由に、おじさん、おばさんたちはまたビックリです。
「映画館に行けば2時間なり1時間半なり、一緒にいても話をしないで済みますから」
今時の若者たち、これで大丈夫なのか?と、本当に驚きました。

 好きなバンドを追っかけて、交通費がかからないように在来線を乗り継いで東京から飯坂まで来て、一人で居酒屋の暖簾をくぐった樹(いつき)君の心意気や良し!
でも彼には、数年前の信州大学の学生たちに感じたような不安を覚えます。
ガールフレンドはいるの?と聞くと居ない答え、「両親を見ていて一緒に暮らせる人がいるのはいいなと思うからガールフレンドがいたらいいかなとは思うけど、気が合う人がいるかどうかわからないし…一人でも別にどうということないし…」と言う樹くんでした。
 今野さんは原発事故がもたらした被害や、被災者たちが起こしている裁判のことなどを話し聞かせ「新聞をよんで、世の中のことを知ろうとしなきゃだめだよ」と言い、私は「イツキ。お母さんがつけてくれたいい名前ね。大木にならなくてもいいから折れない木になって欲しいな」と言って、別れました。
 今時の若者たち、と一言で言ってはいけないかもしれません。
けれども樹君のような、素直だけれど、外の世界に関わろうとせず、従って世の中に対して怒りも憂いもなく、自分の趣味の世界だけに心を向けている若者が多いことが気がかりです。                            

いちえ

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