AB6DC856-DACE-4F91-8464-FFB5A89F0E32
BOOKS CAFE まいまい堂 TEL:090-4153-2007 FAX:026-219-2472

ハードボイルドとは何か? その2

「昔ーーそう、いまは昔『悪魔のようなあいつ』というドラマがあった。(中略)時効を迎える府中の〈三億円事件〉の犯人の話で、放送のエンディングに、毎回〈時効まであと◯日〉というテロップが出た。にじむような画面がいつも少し揺れているようで、その中でジュリー(沢田研二)が色っぽく、きれいだった。ストレートのジーパンに白い衿なしのシャツ、ゆるめのサスペンダーにくたびれたパナマ帽、その後ろ姿を追いかけるように「時のすぎゆくままに」(阿久悠 作詞)が流れて、ジュリーが儚くてきれいだった」(『ひと恋しくて 余白の多い住所録』久世光彦より)
「悪魔のようなあいつ」は、1975年のテレビドラマである。犯人ジュリーを追い掛けるひと癖もふた癖もある刑事役に若山富三郎、高級クラブの経営者に藤竜也、演出が久世光彦という布陣によるアンチホームドラマにして、その頽廃的映像は、今もって忘れることはない。
冒頭の久世の一文に接したとき、もしかするとジュリー=沢田研二は、日本では稀な美しくて儚げなハードボイルドが演じられるを俳優ではないかと思った。
それを証明するかのように映画『太陽を盗んだ男』(長谷川和彦監督)では、平凡な理科の先生が自宅アパートで原爆を作ってテレビ局に「プロ野球中継を最後まで中継しろ!」というアナーキーな要求がふるっていた。犯人ジュリーを追う刑事が菅原文太とあれば、面白くないはずもない。
阿久悠 作詞の「カサブランカダンディ」は、文字通り映画「カサブランカ」の主人公ボギー(ハンフリー・ボガードの愛称)を題材にした歌であり、阿久悠のハードボイルド論であり「時のすぎゆくままに」同様に沢田研二論でもある。

ききわけのない女の頬を ひとつふたつはりたおして
背中を向けて煙草をすえば それで何もいうことはない

ボギー ボギー あんたの時代はよかった 男がピカピカの気障でいられた

「時のすぎゆくままに」も「カサブランカダンディ」を歌えるのは、ジュリーを置いてほかにない。「悪魔のようなあいつ」も「太陽を盗んだ男」を演じられるのも、沢田研二をおいてほかにない。