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たぁくらたぁとは?


柳田國男先生の御説

「たぁ くらたぁ」は、「タクラ・オタクラ・タークラの類」であったとは、柳田國男先生の御説である(『柳田國男集 第7巻』「たくらた考」)。「是は中部地方の 両方の海から海まで、東北と西南の端々にも少し形をかへて行われて居る」とある。「田藏田」とも書いて、「麝香(ジャコウ)といふ鹿と形のよく似た獣だっ たといふ(中略)田藏田には香りがないので捕っても捨ててしまふ。だから無益に事件のまん中に出て来て殺されてしまふ者」とある。信州では「馬鹿者」とか 「オッチョコチョイ」「ショウガネエヤツ」「ノンキモノ」などを、いささかの愛情を込めて「コノ、たぁくらたぁ」などと言っていた。柳田翁はまた「新しい 知識は小さな問題の陰に隠れて居る。さういふ中でも出来るだけ小さいもの、人が省みようとしなかったものから始める。私は馬鹿といふことを問題にして見た いのである」とも書いている。さすれば、小さな問題の陰に隠れているものを探ってみてみようではないか。藪を突いて何が出るかは乞うご期待。
編集室敬白


「田蔵出(たくらだ)」と「たぁくらたぁ」

一枚のファックスが届いていた。見なれた大きめの字が書いてある。手が震えるようになってから、親指をピンと伸ばしその付け根に鉛筆をはさみ、こぶしをぎゅっと机に押しつけ震えを殺しながら机をギシギシいわせて書いた字だ。
《田蔵出……ジャコウ鹿に似た動物。狩のときとび出して殺されることから、自分に関係ないことで愚かにも死ぬ。転じて「ばかもの」の意》と書いてある。気のせいか「ばかもの」の字が太く大きい。
追っかけ、電話があった。古老は「田蔵出はふつうのことば」とだけいうと、決まり文句を二つはいて電話を切った。「ちゃんと、辞書にあたりなさい」と。
本誌の誌名は、編集委員の中では比較的簡単に決まった。うれしそうに「よく言われたよ」と自慢するバカもいた。私の「『たぁくらたぁ』の本籍は北信の北」とする“体験説”は否定され、編集委員会で「北信全域説」が採用された。
(中略)その後、「たぁくらたぁ」を使う地方は意外な広がりを見せた。創刊号を手にした南信の元校長先生が「『たぁくらた』か、よく使うよ」と知らせてくれた。
ファックスには、「タクラダのタクラは、ノンダクレ・ヨタクレ・ヒョウタクレなどに見られるタクレ」で、古語の「タブル(気が狂う)」と同源であるという柳田国男の説を紹介した『下水内の方言』の一節が添付してあった。世の中に、「田蔵出」はごまんといるらしい。それが長野県の東北中信では、「たぁくらたぁ」として生きているのかもしれない。ただ、そのバカさ加減には語源に由来するように「計算しない愚直さ」の響きもある。
古老はいつも「言葉は大切にせよ」と説教する。もう一つの決まり文句「今度いつ帰る」という言葉に、「近いうちにね」という常套句を返しておいた。

関口銭失  「たぁくらたぁ」創刊2号 巻頭言より